こんにちは、金平です。
昨日は、映画「閉鎖病棟 -それぞれの朝-」をみてきました。
作業療法士として実際に精神科医療に携わっている筆者としては、『色々と考えさせられる内容だった』という感想だけで終わってはいけない気がしましたので記事として感想を残します。
感想内容は、筆者の所属先に無関係かつ、あくまでも個人一人の感想です。すべてを鵜呑みにせず一意見として読んでいただけると嬉しいです。
簡潔な感想としては、上手く精神科医療を捉えられている部分もあるなと思う反面、数多くの違和感がありました。フィクション作品としては一見の価値がある映画であると思いますが、“閉鎖病棟の実際”、“精神科医療の実際”を映し出した映画ではないなと思いました。
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それでは、ネタバレが大丈夫な方は、下記にお進みください。
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怖い雰囲気を強調しすぎでは?
暴力やDVの演出
映画全体を通して、怖い雰囲気を強調しすぎな気がしました。
この映画の雰囲気が現在の精神科病院の状況として広まって欲しくないなと思いました。
映画の内容は精神科医療でもありましたが、暴力・DVの色が強かったように感じます。
“この映画の雰囲気が現在の精神科病院”と認識されてしまっては、病院に誰も入院したくなくなると思います。暴力が日常茶飯事であるかのように描かれている印象を受けました。たとえばですが、筆者の私も映画のような病院に入院するのは嫌です。映画の病院は医療がガバガバすぎです。
休息できる・安心できる場としての意味合いも持つ精神科病院が、映画内ではホラー映画の舞台のようになっていたと思います。
精神科の実際は、症状の影響を受けて暴力(自傷他害)の恐れがある方に対しては、即座に医療者が対応して落ち着けるように援助しています。
映画では、症状の影響を受けて興奮する患者さんに対して医療者が「〇〇(患者名)!こっちだ!!来い!!」といったように、医療者が興奮しながら強引に患者さんを引っ張る描写がありました。また、興奮する患者さんをみて医療者が怯えながら他の患者さんを守ろうとする描写がありました。(筆者心の声:なんて素人的な関わり方、、、)
実際は「大丈夫ですか?何かありました?」、「まずは深呼吸してみましょう」など寄り添うような声掛けをするでしょう。加えて、他の患者さんに対応するときには、医療者が怯えていたらその空気感は周りの患者さんにも波及してしまいます。冷静沈着に、安心できる場所への誘導を促したり声掛けしたりするでしょう。
薄暗い演出
映画全体を通して、映像には冷えたような青みがかったフィルターがかかっていたように感じます。
現在の精神科病院や施設は、採光などが工夫されているところが多いです。
安心して入院生活を送れるように暖かさを感じられる工夫がなされています。
そんな中、青みがかったフィルターを通したように映画化されたことに対しては、ホラー映画の色が強いと感じました。
また、古びたような、錆びついた場所も多くありました。古い感じ、錆びついた感じの環境に患者さんを収容しているような雰囲気は、時代錯誤です。この映画は、医療モデルではなく、数十年前の刑務所モデルの雰囲気がありました。
閉鎖病棟だったのか?
映画の設定が閉鎖病棟だったのか、疑問が残ります。
扉を施錠する演出があるものの、入院患者さんは自由に病棟外に出ていたように感じます。
屋上自由に行けるの!?、、、
映画前半では、10代の女性が病院の屋上から飛び降りしていました。
屋上が開放されていること、屋上の縁に柵などが無いので飛び降りホイホイな環境であったこと、屋上で洗濯物を干していた医療者が屋上に来た患者に気づいていないことなどなど、ツッコミポイントがたくさんありました。
まずもって、飛び降りできるような環境を精神科病院は作らないでしょう。
本来の閉鎖病棟は、患者さんを守るために閉鎖されています。衝動的な飛び降りを防ぐ目的で窓は15cm程度しか開かないなど開放制限があったりもします。
症状の影響を受けて衝動性が増したら、自傷他害し放題な映画内の病院、だいぶおかしいです。
陶芸室のヤバさ
陶芸室では、性被害が起きていました。
性的暴力の可能性がある状態の患者さんには、隔離・拘束の対応が検討されるでしょうし、隔離ではないにしても医療者がしっかりと目を配るはずです。
映画内の精神科病院では、症状の影響を受けて自傷他害の恐れがある方への対応が不十分すぎです。
そしておそらく、登場人物の環境が本当に閉鎖病棟であれば、患者さんが自由に陶芸室に行くことは難しく、陶芸室も施錠されているものと思います。
陶芸作品も割って破片にすれば凶器になります。そんな場所に行き放題でかつ密室。ガバガバな管理をしている映画内のような病院は、実際には無いでしょう。
正面玄関ヤバない?
映画内では、正面玄関も行き放題で、入院患者さんが外来の方に茶々入れしたり、逆に暴力を受けたりしていました。
詳しく述べずとも、ツッコミどころしかないですね。
入院患者さんによる茶々入れには指導がなされるでしょうし、外来の方が入院患者さんに影響されるような環境は作られないはずです。
正面玄関の描写はいくつかありましたが、現実とかけ離れてカオスすぎました。
ガバガバ対応な医療スタッフの描写
この映画の病院、きっとアクシデント・インシデントレポートの嵐でしょう。
これまでに述べた自傷他害への対応の悪さ。加えて、個人情報の取り扱いなども不適切な場面がありました。
映画では、自殺して亡くなってしまった患者さんの供養が病棟内で行われていました。そして「自分も死にたくない!!」「うわああああ!」と不穏になる入院患者さんたち。
自殺に反応して不穏になってしまうことは目に見えていますし、亡くなってしまった患者さんを他の入院患者さんに公表することは実際にあり得ないでしょう。このようなことが現在の精神科病院で行われていたら医療ミスの連続でしかないです。
そのほか、殺人を犯してしまった患者さんの弁護士事務所や退院後の情報を、入院患者さんに伝えることもあり得ないでしょう。
実際の精神科病院では個人情報取り扱いの厳重さが増しており、入院患者さんの氏名一つとっても慎重に扱っています。
別の細かなところでは「お母さんの遺言で水は12杯飲むんだ」と述べてコップで何杯も水を飲んでいる患者さんがいました。多飲水です。水中毒になります。最悪の場合、死に至ります。(筆者心の声:映画内の看護師さんよ、その状況見てるんだから、とめてあげて。)
おわりに
お恥ずかしいことに小説は未読ですが、映画をみて感じたことは「いつの時代の精神科を描いたのか?」ということです。
あまりにも、現在の現実の精神科医療とかけ離れていると感じました(もちろん、納得できるポイントもありましたが)。
ただし、小説は調べたところ初版発行が1994年となっていました。2000年以前の精神科病院と捉えたならば、納得できるポイントがもう少しあるのかもしれません。
この映画は、みる人によっては精神科に対する偏見や差別が助長されかねないと感じました。
一見の価値ありですが、あくまでもフィクション作品としてみるのがいいと思いました。
筆者の感想は、ホラー寄りな暴力・DVもの映画です。
映画の特性・映像としてのおいしさなのでしょうか、幻覚・妄想の症状や患者さんの興奮状態などインパクトが強い描写に注力されていたように感じます。
実際の精神科医療は、この映画よりも、もっと人間らしさや自分らしさ、笑顔が多いと思います。
それとともに精神科医療は、もっと人間らしさや自分らしさ、笑顔が多くなって、私たちに身近な存在であって、広く知られるようになってほしいなと思いました。
3000字を超えた長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
また、繰り返しになりますが、上記内容は筆者個人の一意見、感想です。すべての情報を鵜呑みにせず、参考程度にとどめていただけたら幸いです。
また、ブログに訪ねてくださると嬉しいです。
では、また。